紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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紀伊半島地域における地震などの様々なリスクを考える

(2)原発事故
 
    --- リスクの高い原発はすぐに廃炉にすべきだ ---
 はじめに
 東日本大震災に伴う福島第一原発事故によって、日本人の多くは、これまでそれとなく信じていた高い科学技術力を背景とする「原発は安全」が、単なる「神話」であったことを思い知らされました。放射能による死者は出ていませんが、汚染地域の広がりにより、多くの人たちが、それまで住みなれた家と土地を追われ、勤め先を失い、農業や漁業という生業を放棄することを強いられるなど、人生を狂わされ、塗炭の苦しみを味わされています。そして、放射能汚染地帯では事故終息後もセシウムなど半減期の長い放射性物質に汚染されているために、自宅に戻れるという保証はありません。現在も続く高放射能下で、原発事故終息のために極めて困難な作業に多くの人たちが従事していることに敬服しつつ、不測の事態により、更なる水素爆発、水蒸気爆発、再臨界、大量の高濃度汚染水の海への流出、作業員の被曝による生命・健康被害など、災害の拡大が起こらないように願い、あらゆる人的能力、資材、資金を投入し、安定化対策が成功することを望みます。

 東日本大震災の発生により、日本列島の形成自体に起因する地震国であるという宿命に改めて気付かされ、繰り返し襲ってくる地震をはじめとする自然災害へ備えることの重要性を改めて考えさせられます。思えば戦後60年間、わが国は、地震活動が比較的静穏な時期を過ごし、経済的繁栄を築いてきました。しかし、20世紀末から21世紀に入り地震活動が活発化する傾向にあり、阪神淡路大震災、今回の東日本大震災はこのような傾向の中で発生したと考えられます。今後、首都圏を巻き込む直下型大地震、東海、東南海、南海地震の発生も予測されており、原発の存廃、原発の地震・津波等に対する安全対策について再検討し、早急に対策を講じていくことが必要となっています。
 
 今回の原発事故は、地震、津波に対する備えが不十分であったという技術的な側面、それと、不十分な安全指針しか作れず、対策を不十分なままにしたという原子力安全・保安院や原子力安全委員会などの国家組織を含む組織的問題、リスク管理を行うべき人の問題、リスク管理を巧くできないという文化的欠陥、電力会社・監督官庁・学者・政治家が一体となった安全性を二の次にした原発推進と、原発利権に群がる「原発村」による批判的意見の排除や無視、「やらせ」や金のバラマキなど様々な手段を使った反対論の封殺・排斥、電力会社の目先的な利益追求主義から生まれる不十分な安全対策といった社会・経済的な側面の両面から生じたと考えられます。 

 筆者は、今回の原発事故を目の当たりにして、自分が日々使用している電気の10数%(中部電力管内)が原発によって作られていながら、原発に対してほとんど関心を寄せてこなかったことを深く反省し、市民の1人としてもっと原発に対する関心を深め、正確な情報を収集・蓄積し、安全対策・リスク管理に疑問を発し、市民と共に考えていくことが大切だと思い、本ホームページに原発関係の記事を掲載することにしました。
 
 原発のベネフィットとリスク
 まず、原発のベネフィット(便益、利益)とリスク(危険性)を考えると、今回のような原発事故が起こらないのであれば、原発のメリットとしては、@わが国のエネルギー利用を石油依存から脱却させるというエネルギー安全保障上のメリット、A地球温暖化防止のための二酸化炭素排出量の削減に貢献するというメリット、B原発の廃炉・放射性物質の長期保管等の莫大なコストを考慮しなければ発電コストが安いというメリット、C原子力産業と原子炉輸出による国民経済への貢献というメリットが挙げられます。
 
 これに対して、リスクあるいはデメリットとしては、今回のような原発事故が起こった場合に、@被害が極めて大きく、1企業が責任を持って対処(補償)できる範囲をはるかに超えること(通常では企業の存続は不可能)、また、A金銭的な補償では済まされないような災害であること、B原発の使用済み核燃料、高放射性廃棄物を捨てる場所が国内に確保できず、原発を続ける程やっかいなものが溜まり、その結果、原発敷地内にそれらを大量に保管せざるを得ない事態に陥っていること、このことが、地震・津波などの災害に対して極めて危険な状態となっていること、C原子炉を輸出した場合に、輸出先の国で災害、テロ、人為的管理ミス等により大事故が起こった場合に、輸出企業や輸出国も責任を問われ、この場合に輸出企業の補償能力に限界があることから国家間の賠償問題に発展し、日本国民に経済的道義的な責任が負わされる可能性も否定できません。国として、あるいは企業として、あるいは一市民として、地震国であるわが国の原発問題を考えると、とてつもなく大きなリスクを有する原発を他の発電方法、あるいはエネルギーに代えていき、原発を見直し、原発によるリスクを減らす方向に進むべきと考えます。

 今後、原発から自然エネルギー、天然ガス等へ転換することによって、原発のベネフィットと考えられる事柄が代替えできると考えられます。すなわち、上記メリットの@については、自然エネルギーの開発・普及を行えば、エネルギーの国産化が可能となり、更に、天然ガスなどを含めた化石燃料の輸入先を多様化させることを合わせて行えば、エネルギーの安全保障が向上します。Aについては、自然エネルギー、天然ガスへの移行により二酸化炭素排出量の削減が可能です。Bについては、原発による電力価格は次のような経費を織り込んで再計算すべきです。すなわち、(ア)原発立地の地元への優遇措置に係る経費、(イ)廃炉に要する経費及び使用済み核燃料等の核廃棄物を長期的に安全に保管するための経費、(ウ)今回の原発事故の補償のための経費、(エ)将来的な原発事故に対する保険料、(オ)原発の寿命を40年間とし、定期検査等を含む実際の操業率に基づく計算、(カ)今後の安全審査指針等の改正に伴う安全基準の強化による施設設備の補強・安全対策経費の増加、(キ)国により原発に投資される経費を自然エネルギー関係へ転換するなど、それらを全て入れて再計算することにより、これまでの原発による電力価格は現在よりももかなり高くなると見込まれます。
 
 一方、国が原発に投資してきた費用をこれまで投資額が比較的少なかった自然エネルギー開発へ振り向けるとともに、太陽光発電パネル・風力発電装置等の大量生産、効率性向上によるコスト低下によって自然エネルギー単価が低下し、双方の価格差はずっと小さくなると考えられます。メリットのCについては、自然エネルギー・環境産業をわが国の戦略産業と位置付けて研究開発に集中投資し、現在でも高水準にある技術力を更に強化し世界市場を獲得すれば、自動車産業とともにわが国経済のけん引役となり、経済発展に貢献し、地球温暖化防止という世界的課題にも貢献できます。

 原発再稼働の条件
 原発がなくてもやれるというならば無い方がいいが、すぐには代替えができないと考えている人も多く、また、原発廃止に反対の人たちは、@原発産業によって生活している、あるいは利益を得ている、A原発の運転停止あるいは廃止に伴う電力不足により、企業等の操業・運営に支障をきたし、失業者増や給与減をきたす、B今まで培った原発技術を無にすることは、これまでの投資、人的財産を無駄にし、社会的損失であると考えるからだと思います。

 しかし、原発事故の再発生というあまりにも大きなリスクを可能な限り低下させるためには、原発から自然エネルギーへの転換を図っていくことが必要です。全ての原発をすぐに廃炉にするということではなく、危険性の高い原子炉から運転停止、廃炉にしていき、電力不足をきたさないように自然エネルギー発電や天然ガス発電による電力供給量の増加と電力単価の上昇防止(あるいは国民的理解の上で財政的補助)を行っていくことが現実的だと思います。その間のつなぎとして、電力会社による火力、水力発電等の増強、民間会社による自家発電の増強と売電、社会全体による節電、省エネ、夜間蓄電等を積極的に進めれば、電力不足を十分に乗り切ることが出来ると考えられます。

 一方、定期検査中の原発を再稼働する場合には、現在の原発の安全審査指針が不備なために、福島第一原発事故が発生し、しかも緊急対策が機能しなかったことからみても、指針等の見直し・追加が必要不可欠です。そして、今後改正される安全審査指針等に基づき、必要な補強工事、安全対策を全て終えた後で、地元の了解を得て再稼働すべきです。また、これまで原子力安全・保安院は原発推進側として、電力会社と一体になって中途半端な安全対策を実施し今日の困難な事態を招いたことから、国民の不信を買っています。したがって、現在の原子力安全・保安院は解体し、規制側に立った新しい組織を作り、原発のリスク管理を公明正大に(情報公開を徹底し、国民の疑問に真しに分かりやすく答え、経営至上主義の電力会社側でなく国民の安全安心を確保する立場に立つ)行うようにする必要があります。福島第一原発事故の安定化も達成できていない時に、原子力安全・保安院の審議官が九州電力幹部と一緒に佐賀県を訪れ、玄海原発は浜岡原発と違い安全なので早期に運転を再開させて欲しいと、安全指針の見直しや安全対策も不十分な状況下で頼みに行っていますが(2011年6月9日)、原子力安全・保安院はこれまでの電力会社と一体になって推進してきた問題点への反省が少しも見られず残念でした。

 リスクの高い原発はすぐに廃炉にすべきだ
 リスクの高い原子炉は、この際、直ぐに廃炉とすべきです。すなわち、
@国が巨大地震の発生確率が高いとする静岡県浜岡原発3〜5号機、
A原子炉の型が古く、その開発会社である米国GE(ゼネラルエレクトリック社)の技術者からも過去に危険性が指摘されており(
注1:下記)、また、福島第一原発で電源喪失後にいずれも重大事故を回避出来なかった1〜4号機と同じ沸騰水(BWR)型原子炉(軽水炉)マークT型(宮城県女川原発1号機(1984年運転開始)、福井県敦賀原発1号機(1970年)、島根県島根原発1号機(1970年))、
B長年にわたる運転によって中性子があたり原子炉の強度が脆くなっており、原子炉を急速に冷却すると破壊する可能性がある「脆性遷移(ぜいせいせんい)温度」(注2:下記)の高い、佐賀県玄海原発1号機(脆性遷移温度が98℃)(1975年運転開始)、福井県美浜原発1号機(同81℃)(1970年)、同2号機(同78℃)(1972年)、福井県大飯原発2号機(同70℃)(1979年)、
C運転開始後の年数が40年を超すもの(1976年以前に運転を開始したの上記の原発のほか、美浜原発3号機(1976年)、高浜原発1号機(1974年)、高浜原発2号機(1975年))。原発の設計寿命は40年ということですが、最近は60年まで延長可能といった根拠の不明確な原子力安全・保安院の途方もない方針があります。しかし、例えば、上記の「脆性遷移温度」の上昇などで危険性が指摘されているものも多く、これは中性子照射による原子炉そのものの劣化を示すので、当初の設計寿命通り40年で廃炉にすべきです。
D内陸型活断層に近く、地震発生確率が相対的に高く、大きな地震が起こりやすい地域にあるものは、運転を停止し、廃炉とすべきです。
E人への毒性が高く半減期の極めて長いプルトニウム(プルトニウム239の半減期は約2万4千年))を使用するプルサーマル(もんじゅ、および各地のプルトニウムを核燃料に混合して運転するMOX発電)を中止すべきです。
    
F原子炉の新規開設・増設は中止すべきです。
 これらを計画的に実施することにより、電力不足を回避しながら、、世界的な地震大国であるわが国も将来的に、ドイツ(2022年までに脱原発予定)、イタリア、スイスのような脱原発国になることができます。また、原子力から自然エネルギーへと人的、財政的投資を切り替えて技術開発を進め、わが国が自然エネルギー大国に変わっていくことが、国民の安全安心の確保と技術立国を進める道であると思います。 
    注1)
 米国で1960年に運転が開始された発電用原子炉である沸騰水型原子炉は、マークT型あるいはマークU型という格納容器(工学的安全施設)の中に、主蒸気系配管、再循環系配管、及び関連設備がともに格納され、外部環境中に放射性物質が拡散しないようになっています。福島第一原発1〜4号機はマークT型ですが、その特徴は、原子炉格納容器が後に開発される原子炉と比べて小さく、冷却機能が失われると原子炉格納容器に大きな圧力がかかりやすいことです。福島第一原発1号機には当初ベント装置(原子炉圧力容器および格納容器が爆発しないように内部の高圧ガスを外部に放出する装置)が設けられていませんでしたが、後に設置されました(福島第一原発では、災害の混乱時に、この手動式ベント装置の操作法などが分からず、設計図を調べてやっと操作できるようになったため、ベントが大幅に遅れたようです(2011年6月5日のNHKドキュメンタリー放送))。敦賀原発1号機も福島第一原発1号機と同じ沸騰水型原子炉マークT型(1970年に営業運転開始)で日本最古の原発の1つですが、GEの当初の設計通りベント装置が設置されていないことが福島第一原発の事故後になって明らかにされ(6月4日)、急きょ設置されることになりました。原子力・安全保安院、原子力安全委員会、電力会社による原発の安全管理がいかにルーズであったかの見本のようなものです。マークT型には、格納容器の強度以外にもいくつかの弱点があります。その一つは格納容器内の構造がたいへん複雑であり、配管や圧力抑制プールが小さなスペースの中に複雑な構造で収まっていることです。この欠点は、どこかが破損した場合に、重大な結果を招きかねないものです。まず、故障箇所を見つけるのが大変で、そこにアクセスすることさえも難しいとされています。GEのマークT型設計者の1人であったデール・ブライデンボーさんはGE退職直後に、マークTは、原子炉格納容器の上部が小さく、下部と結合する構造が脆弱で、万一の事故の際には危険であることを米議会で証言しています。マークT型の設計上の問題は、米原子力規制委員会の専門家も指摘しており、その後、GEは弁を取り付けて原子炉内の減圧を可能にしたり、格納容器を下から支える構造物の強度を改善したりしています(週刊現代2011416日号、毎日新聞 2011年3月30日)。しかし、マークT型の基本設計には手が付けられてはおらず、安全設計が未熟であった時代の古い型の原子炉が40年以上経過した今も運転されていることになります。
 
注2)
 脆性遷移温度とは、原子炉が長期間運転されると、発生する中性子等により原子炉を構成する鉄鋼が脆くなり、事故などで原子炉を停止して急速に原子炉が冷却した場合に、原子炉にひびが入り破壊されやすくなる温度です。運転年数が延びるほど、脆性遷移温度は高くなります。例えば、九州電力玄海原発1号機(1975年運転開始)を試験片で調査したところ、1976年には35℃、1980年には37℃、1993年には56℃、2009年には98℃(2011年7月3日、朝日新聞)と年数に従って上昇率を拡大させながら沸点近くにまで達しています。ガラスコップに熱湯を注ぐとひびが入ることは知られていますが、逆に急激に冷却してもひびが入ります。これと同じことが原子炉でも起こります。しかも、原子炉内部は運転時には高温高圧状態にありますので(沸騰水型原子炉圧力容器内の蒸気の温度は通常280℃、70〜80気圧)、急速に冷却されひびが入れば大爆発を起こす危険性があります。福島第一原発では、核燃料棒がメルトダウンを起こさないように、原子炉内に大量の水を急速に注入しなければならない事態が生じましたが、脆性遷移温度が高いとこの段階で原子炉にひびが入る危険性があります。また、鉄鋼が脆くなっていると激しい地震により損傷を受けやすくもなります。
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